TOP>WORKS>「女子中学生の誘惑」2話

「……ということがあったんだ」


次の日の放課後、誰も居ない教室。

僕はクラスメイトであり、恋人である、「峰崎サクラ」と2人っきりで談笑していた。


「へぇ、なんか初々しくってかわいいね。

 中学生の女の子に告られるとか、けっこうやるじゃん。

 同級生からは全然モテないのにねぇ」


「おいおい、自分の彼氏にそういうこと言うかよー。

 まぁたしかに全然モテないけどさ……」


サクラは意地悪く笑いながら、僕を茶化す。

そういう僕は、バツの悪そうな感じを装いつつも、ついつい顔がニヤついてしまう。

仕方ないじゃないか、女の子に告白されたのは、実際のところ初めてなのだ。

サクラとは、僕のほうから告白して付き合い始めた。

まさかこんな僕と付き合ってくれるなんて。

自分から告白しておきながらも予想外だった。


「あーあ、もうニヤニヤしちゃってさー。

 いいよ、別に。

 私よりその子のほうがいいなら、乗り換えちゃえば?」


「ば、馬鹿なこというなよ!

 そんなの絶対ないって!

 だってまだあっちは中学生だし……、そういう対象として見れないって!

 僕はサクラの方がいい! というかサクラじゃなきゃイヤだ!」


「あははっ! もう、そんなにムキにならないでよー。

 ちょっとからかっただけだってば、ね?

 ……ふふ、でも、ありがとね、嬉しいよ」


そう呟いたサクラの顔は、安心感に包まれて、とても幸せそうで。

僕の思い上がりかもしれない。

だけど、僕に向けられたその柔らかな微笑みが、すごく愛らしくて。


「浮気したらダメだよ?」


「しないよ。するわけがない」


それを見て僕は、なんだか不意打ちを食らったみたいになって。

胸がキュンと締め付けられて、思わずサクラを抱きしめたのだった。










先日、僕に告白してきた中学生。

彼女の名前は、「美香」というらしい。

如何せん、特徴がないのが特徴みたいな子だ。

最初はちゃんと彼女の顔を覚えてあげられるか心配だった。

でも時間が経つにつれて、僕はしっかり彼女の顔が認識できるようになった。

顔を覚えてあげられるかどうか心配だったので、まずは一安心。


僕と美香ちゃんは、数日おきに特になんでもない内容のメールのやりとりするようになった。

学校の敷地内でたまにすれ違うときは、軽い挨拶を交わす。

時間に余裕があるときは、軽く話し込んだりもする。

フッたフラれたなんて、お互い微塵も感じさせない。

僕らは普通の先輩と後輩という関係を築き上げていった。






「先輩、こんばんは!

 今から帰るところですか?」


たまたま帰りが遅くなってしまったある日のこと。

校門のあたりで声をかけられ、振り向く。

声の主は、予想通り美香ちゃんだった。

彼女も部活が終わって、今から帰るところなのだろう。

トテトテと彼女が僕のもとへと駆け寄ってきたとき、甘酸っぱい女の子の汗の匂いがした。



特にその後予定があるわけでもない。

サクラももうとっくに下校してしまっていた。

僕もなんとなく誰かと話したいと思っていたところだった。


せっかくなので、僕らはその場で話し込んだ。

高等部のこと、中等部のこと、美香ちゃんの部活のこと。


あと……、なんだっけ?

それにしても、美香ちゃんっていい匂いだな。

シャンプーの匂いってわけじゃないし。

当たり前だけど、香水とか化粧の匂いじゃない。

純粋に、この子の体臭なんだろうな。

汗と、あと、頭の、ふけ?

……って言ったらなんだか汚いか。

でも「美香ちゃんの」っていう風に形容したら、あまり汚く感じないな。

バレー部だから、体育館の埃っぽい匂いも、若干混じってるかも。





どのくらい時間が経っただろう。

そろそろ話を切り上げて帰ろうかと思っていたときだった。


「あのー、先輩。

 私の匂いそんなに気になりますか?

 部活終わってすぐなんで、やっぱり臭いですか?」


唐突に尋ねられ、僕はハッとした。

どうやら僕は無意識に美香ちゃんの匂いを嗅いでいたらしい。

それも、美香ちゃんが気づいてしまうくらい、思いっきり。

たしかに途中から僕はずっと上の空だった。

美香ちゃんの匂いのことばかり考えていたような気がする。

ちょっと待てよ、それってなんか、「変態」じゃないか。

僕は顔を真っ赤にして、慌ててそれを否定した。


「い、いやいや! そんなことはないよ!

 たしかに汗の匂いはするけど、別に全然臭くないし!」


「でも、先輩ずっと私の匂い嗅いでましたよ……

 あ! じゃぁもしかして、私、いい匂いなんですか?」


おどけた感じでそう尋ねる彼女。

僕はビクッとしてしまった。

彼女からしてみれば、軽い冗談を言っただけなのだろうけれど。

僕にしてみれば、内心うすうす思っていたことを、言い当てられてしまったわけであって。


「え!? ……あ、うん、いや。

 あー、えっと、いい匂い、かも……」


僕は答えに詰まってうろたえてしまった。

ますます顔が赤くなる。


「えー! ちょっともう先輩ー!

 冗談のつもりだったのにー!

 まさかそうなんですかー!

 やだーもう!」


そう言って、心底おかしそうに笑い始める彼女。

ああ、なんてことを。

とんだ失態だ。

年下の女子中学生にいいようにからかわれて、情けないぞ、僕。


「あー、もう笑うな笑うなー!

 ごめん、本当にごめん、謝るからさ!

 だからからかわないでってば、恥ずかしいって!」


まぁ、ドン引きされたわけではないようなので、まだマシな方かもしれない。


どうやら僕の反応がツボに入ったらしい。

美香ちゃんはしばらく笑い続けた。


そしてひとしきり笑ったあと、彼女はまた唐突なことを言い出した。


「えー、じゃあ、先輩、私がさっきまで着てた部活着、貸してあげましょうか?

 家に持って帰って、ずっと嗅いでてもいいですよ。

 いっぱい汗吸ってるから、たぶんすごく匂うと思いますよー!」


「え?」


なんだ、どういうことだ。

部活着を、貸す?

美香ちゃんはエナメルバックの中から綺麗にたたまれた部活着を取り出した。

そして、彼女はそれを僕に差し出した。


「うわー! やだー! やっぱりくさーい!

 でも、先輩はこの匂いがいいんですよね?

 はい、じゃあ、これ、先輩にお貸ししまーす!」


美香ちゃんはすっかりテンションが上がりきっていた。

そのテンションに流されて、僕は美香ちゃんの部活着を受け取ってしまった。


「明日、返してくれれば大丈夫ですから!

 じゃあ、私、そろそろ帰りますね!

 先輩、お先に失礼しまーす!」


元気のいい挨拶をして、美香ちゃんは去っていった。

状況が理解できないまま、僕はしばらくそこにボケッと突っ立っていた。

正気に返って、今の状況を反芻してみる。

校門に残されたのは、両掌で衣服を抱える、間抜けな僕。

そして、その衣服は、女子中学生の、使用済みの、部活着。

いい匂いがする。



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