TOP>WORKS>「女子バレー部の後輩たちに…」2話

僕は女子バレーボール部の練習に参加することになった。

それにあたって、沙織は2つの条件を提示した。

まず、僕が参加するのは、監督が体育館にいない最初の1時間だけ。

そして、キャプテンである沙織の指示には、他の部員と同様に従う。

この2点。

それで構わない、と僕は告げた。




さて、その日の放課後。

男子バレーボール部は体育館が使えない筋トレ練習の日。

女子バレーボール部は体育館練習の日だった。

僕はさっそく部員に事情を説明した。

今日から女子バレーボール部の練習に参加させてもらう。



練習前、沙織は女子部員を集合させた。

そして彼女の口から、事情が説明される。

僕は簡単な自己紹介と挨拶をした。

女子にかこまれて少し緊張した。

しかし、これも部の存続のため、と自分に言い聞かせる。


そして練習開始。

沙織がキャプテンとして指示を出し始める。

キャプテンとしての彼女は、普段の優しげな彼女とはまるで違った。

キリッとした表情で自分の役割を完璧にこなす姿は、まさに頼りになるキャプテン。

同じキャプテンとして、まずそこから見習わなくてはいけない。

そう思った。


最初は2人組を作って、パス回しの練習。

沙織は副キャプテンの女の子とペアを組む。

他の3年生も全員レギュラーであるため、僕の相手はできないらしい。

そのため、僕はレギュラーでない2年生とペアを組む事になった。


「よろしくおねがいしまーす!」


僕のペアになったのは、秋山美香というショートカットの女の子。

明るくて元気がいい女の子だった。

バレー部にしては、身長は低め。

ポジションは、たぶんセッターかセンターのどちらかだろう。


そんなことを考えつつ、簡単なパス回し。

このくらいは、さすがの僕でもできる。


そして次はアタックとレシーブの練習。

2人組の片方がアタックを打って、片方がレシーブで受けるという練習である。


しかし、ここで僕は少し悩む。

女の子相手に本気でアタックを打っていいのだろうか。

しかも相手は1歳年下の2年生の女の子である。

なので、まずはお手並み拝見。

美香ちゃんの方からアタックを打ってもらうことにした。


「わかりました! それじゃいきますよー!」


ボールをヒョイと軽く上げてそして……


ビシィィィィィィ!!!!!!


鋭い打球が僕の腕を抉った。

あらぬ方向に飛んでいくボール。

僕の腕はレシーブの構えを完全に崩された。

ヒリヒリとした痛みと痺れで、腕に力が入らなくなった。


「え……?」


キョトンとした表情をうかべる美香ちゃん。


「あ、いや、ごめんね!

 次はちゃんとレシーブするから!」


2年生の女子が打った打球に圧倒されてしまった。

その恥ずかしさを誤魔化すように、僕は急いでボールを拾いに行った。


拾ってきたボールを美香ちゃんに渡し、練習再開。

さっきと同じように、ボールをヒョイと上げ……


ビシィィィィィィ!!!!!!


「……っ! 痛っ……!」


またしてもあさっての方向へと飛んでいくボール。

急いで拾いに行って、美香ちゃんに渡す。


「ごめんなさい、痛かったですか?

 すこし弱めに打ちましょうか……?」


「い、いや大丈夫だよ!

 それじゃ練習にならないしね!」


本音を言うと、少し弱めに打って欲しかった。

しかしそんなことは言えない。

年下の女の子に手加減してくれだなんて。

男としてのプライドが許さない。


やせ我慢をしつつ練習を再開。

しかし何度やっても、僕はまともに返球できなかった。

腕ばかりがどんどん腫れていった。


そして沙織の号令で打ち手を交代。

次は僕が打つ番なのだが……


「どうしたんですか先輩ー?

 はやく打ってくださいよー」


女の子相手だから手加減しよう、なんてとんでもない。

あんなに鋭く重いアタック、僕には打てない。

どんなに渾身の力を込めて打ったとしても、だ。

というか、今はそれ以前の問題が発生していた。

美香ちゃんのアタックを何発も受けたせいで、手が痛くて動かないのだ。

一生懸命ボールを上げようとするのだが、腕が上がらない。


「ご、ごめん……

 もう少しレシーブの練習がしたいから、また美香ちゃんから打ってもらえるかな……?」


そんな出まかせを言って、美香ちゃんにボールを渡した。


「はーい! わかりましたー!」


そして悪夢が始まった。


ビシィィィィィィ!!!!!!


ビシィィィィィィ!!!!!!


痛い。

悔しい。

泣きそうだ。


「先輩ー、はやくボール拾ってきてくださいよー」


「う、うん……ごめん……」


最初のうちは、ボールを投げて渡していた。

しかし手が痛くて、もうそれもできない。

僕は美香ちゃんのところまで走っていって、ボールを手渡しする。


「ほらー、先輩、はやくかまえてくださいよー」


「うん……」


少し腕を休ませたかった。

なかなか構えない僕を、美香ちゃんは平然と急かした。


僕は嗚咽交じりに返事をした。

もはや、美香ちゃんに痛めつけられるため。

そのためだけに、おそるおそる腕を前に突き出す。


美香ちゃんはそれを確認し、アタックの構えを作る。

僕は恐怖で反射的に目をつぶった。


再び襲ってくる容赦ないアタック。

僕は身を縮めて、痛みに耐えた。

もうまともに返球しようなんて、思っていなかった。

ただただ痛みに耐えるだけ。


僕はこれでも男子部のキャプテンだ。

その僕が、女子の、しかも2年生のアタックをまともに受けれないなんて……

悲鳴を噛み殺しては、走ってボールを拾いに……

悲鳴を噛み殺しては、ボールを拾いに……


ボールを渡したとき、美香ちゃんと目が合った。

美香ちゃんは笑っていた。

僕を馬鹿にした笑顔だった。


「……ださっ」


美香ちゃんが小さく呟いたのが聞こえた。

心臓を抉るような一言だった。

これが引き金だった。



アタック練習が終わった。

練習は次のメニューに移る。

しかし僕はもう限界だった。


「美香ちゃん、ごめん……

 具合が悪くなっちゃった……」


「はーいおつかれさまでしたー」


美香ちゃんの反応はそっけなかった。

さっさと消えうせろ、とでも言わんばかりの態度だった。



僕は体育館の隅で、練習を見学することにした。

美香ちゃんの方を見てみた。

友達と何かひそひそ話している。

美香ちゃんと目が合う。

そのたびに心臓が高鳴った。


女子部員たちが練習を続ける横。

僕は自分の中学生時代を思い出していた。


クラスの女子から虐められていた中学時代。

よく陰口を叩かれていた。

軽蔑の視線を向けられていた。

ことあるごとに、理不尽な謝罪を要求されていた。

そのたびに心臓が高鳴った。



体育館の隅。

中学時代のトラウマが蘇ろうとしていた。

僕は顔をふせて目を瞑った。

顔が火照る。

心臓の音がうるさい。





それからの時間は、永遠のように長かった。

早く体育館から出たかった。

僕は呼吸を整える。

顔をぬぐい、精一杯平静を装った表情を作る。

沙織のところに行き、そろそろ引き上げると伝えた。



体育館の隅に置いた自分の荷物をまとめていた時。


「先輩ー、明日も来るんですよねー?」


「ひぃ!?」


声の主は美香ちゃんだった。

獲物をいたぶる目をしていた。


「そんなにびっくりしないでくださいよ(笑)

 それで、どうなんですか? 来るんですか?」


「え、えっと……明日は男子も体育館練習だし……その……」


「じゃあこっちの練習に参加してから、男子の方に合流するんですね?」


「う、うん、そうだね……」


「わかりました。

 それで、先輩、お礼は?」


「え?」


心臓が高鳴った。


「美香がペアを組んであげたお礼。

 美香にありがとうは?」


トラウマが蘇ってくる。

鼓動が早くなる。

あぶら汗が頬を伝った。


「あ、ありがとうございました……」


「はい、よろしい。

 帰っていいよ」


許可をいただけた、嬉しい。


「はい、し、失礼します……」


僕は後輩に頭を下げた。

まるで美香ちゃんの方が先輩。

年下の先輩。

顔が熱い。

汗が止まらない。

体育館を離れても、心臓の高鳴りは収まらなかった。



3話

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