TOP>WORKS>「女子バレー部の後輩たちに…」4話

そして次の日の放課後。


僕は2年5組の前の廊下に立っていた。

今日の女子バレーボール部は3年生が練習試合で不在。

そのため今日は1、2年生のみで筋トレを行う。

つまり、ほとんど休みみたいな日だ。

だから僕が今日女子バレーボール部の練習に参加する意味は無い。


しかし、それでも僕は2年5組の前の廊下に立っていた。

僕は男子の練習を放棄して、女子の筋トレに参加する。

しかもいつものように1時間ではなく、練習が終わる最後までだ。


あえて女子の休みみたいな練習に参加する。

理由は、そうするように美香ちゃんから言われたからだ。

男子バレーボール部の存続より、後輩からの命令の方が僕には大事なのだ。

僕はもう男子バレーボール部のキャプテンではない。

今の僕はただのいじめられたいマゾ豚だった。



「なにボケーっと突っ立ってんの?」


僕のペニスが反応する。

女子バレーボール部2年生、秋山美香が声をかけてきた。



美香ちゃんのクラスは、ついさっき授業が終わったようだ。

彼女はまだ紺のセーラー服姿だった。


「え、えっと……どうすればいいんでしょうか……」


「はぁー? 5組の教室もう誰もいないじゃん。

 さっさと机を全部下げて準備しなよ。

 そんなこともいちいち言われないとわからないの?」


「ご、ごめんなさい……」


美香ちゃんは当たり前のように僕を叱りつけた。

僕も当たり前のように反省した。


「もうすぐみんな来るから急いでよ。

 あ、そうだ、ついでに床の掃除もしといて。

 腹筋とか背筋とかもやるから」


「はいっ……!」


美香ちゃんは更衣室に向かっていった。

僕は急いで机と椅子を全部後ろに下げた。

床のほこりを全部ほうきで集める。

律儀に拭き掃除までとりかかった。


「え……あの人なんで今日もいるの?」


「あの人3年生だよね……?

 一応、掃除代わった方がよくない?」


「うん……そうだね。

 ……先輩! 掃除代わります!」


「えっ!? あ、えっと……」


この子たちは1年生部員だろう。

彼女らは僕から掃除道具を奪うと、代わりに掃除を始めた。

僕は仕事を失い、また棒立ちになる。



部員たちがぞろぞろと集まりだした。

不審な目が僕に向けられる。

僕はさすがに居た堪れなくなった。


「ちょっと! なんで1年に掃除させてんの!」


「あっ! え、えっと、これは、その……」


教室に驚きが広がった。

当然だろう。

美香ちゃんが先輩である僕を叱りつけたのだから。


「美香さー、言ったよね?

 おまえが掃除しろって?

 そのくらいの指示もまともに聞けないの?」


「す、すいませんでした……」


他の部員たちは謝る僕を見てさらに驚く。

美香ちゃんの隣にいた2年生が彼女に便乗した。


「ていうかさー、ウチらの練習に参加させてあげてるんだよ?

 ちゃんと感謝してんの?」


「は、はい……してます……」


「じゃあ掃除くらい言われなくてもするのが普通じゃん?」


「はい……すいませんでした……」


僕はついに美香ちゃん以外の部員にまでお説教された。

他の部員たちも、それまでは不審そうにしているだけだった。

しかし、彼女たちの空気を察知して、僕をいじめの対象として認識した。




そして筋トレがはじまった。

まず手始めに腕立て伏せ100回。

全員で声を出して同じペースで進めていくやり方だった。

100回という数字に僕は驚き、そして内心かなり焦っていた。


僕ら男子バレーボール部も筋トレを行う。

しかし、腕立てはいつも30回だ。

女子がやる回数の、3分の1にも満たない。


「腕立てー! いーち!」


「「いーち!」」


「にー!」


「「にー!」」


美香ちゃんの掛け声に合わせて腕立てが進んでいく。


「よんじゅうごー!」


「「よんじゅうごー!」」


「あゆむなにやってんの!?

 みんな待ってんだけど!?」


「気合入れろよー!」


「おとこみせろー!」


「す……すい……ま……せ……」


「もういいや、ちょっと廊下に出て。

 ごめんみんな! 続きしといて!」


「「はーい!」」


僕は美香ちゃんに引っ張られて廊下に連れ出された。



パァァァァァンッ!!!!



僕の頬に平手打ちが飛んできた。


「ねぇ、おまえ、やる気あんの?

 ウチらの練習なめてんじゃないの?」


「い、いえ……」


「なんで腕立てもできないの?

 1年より弱いじゃん。

 恥ずかしくないの? ねえ、わかってんの?」


「ぐすっ……ぐすんっ……」


「また泣いてんの?

 どんだけ情けないの? もうキャプテンとかやめれば?」


「ぐすっ……ずいまぜん……」


どうやら腕立てが終わったらしい。

いつの間にか、他の部員たちが僕らのやりとりを覗いていた。


「うっわ……泣いてるよ……」


「ていうか、あの人ぶっちゃけバレー下手だよね……」


「うんうん、私もそう思ってた……」


「あんなのが3年だなんて……信じらんないよね……」


女子部員たちの陰口が聞こえる。

こんな様子を見られてはもう御終いだ。

いずれ彼女たちも僕に対してキツく当たりだすに違いない。

僕の動悸が早くなる。

より酷い苦痛を望んでいる自分がいる。

僕は美香ちゃんに叱られながら、股間を膨らませていた。





そしてその日の練習は終わった。

集合して明日の連絡事項を告げる簡単なミーティング。

キャプテン不在の今日は、美香ちゃんがキャプテンの代わりを務める。


美香ちゃんは部員に一通りの連絡事項を告げた。

そしてこの日はもう解散だと思われたのだが……


「ところで、あゆむ先輩の処遇について提案があります」


「え?」


美香ちゃんは驚く僕を横目に、淡々と話し始めた。


「知っての通り、あゆむ先輩は男子バレーボール部のキャプテンです。

 でも、みんなもう気付いてるよね?

 この人、バレーはヘタクソだし体力も全然ないし……」


「あはは! 美香、はっきり言い過ぎー!」


他の部員たちが茶々を入れる。

僕は何も言い返せない。

ただ俯いて、股間を膨らませてしまうだけ。

美香ちゃんは続ける。


「だってそうじゃん!(笑)

 それで、そのあゆむ先輩ですが、今週から女子バレーボール部の練習に参加する事になりました。

 つまり、女子バレーボール部の在籍歴でいえば、美香たちより後輩です」


「美香ちゃんたちより後輩」

その言葉に僕はゾクゾクするような快感を覚える。

僕が、女子バレーボール部1、2年生の後輩……


「なので、あゆむ先輩……

 いえ、あゆむを、私たちの『後輩』として扱おうと思います。

 みんな、どう思いますか?」


「いいねー! さんせー!」


「あたりまえだよねー!」


僕は辺りを見回す。

この子たちが僕の先輩になる……

僕の方が年上なのに。

僕は男子バレーボール部キャプテンなのに。


「異論はないみたいですね。

 それじゃ、あゆむは今から私たちの『後輩』ってことで。

 あゆむ、聞いてた? そういうことだから。

 今から美香の事は『美香先輩』って呼びなよ」


こうして僕は女子バレーボール部1、2年生の後輩になった。



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