TOP>WORKS>「女子テニス部の1年生」2話

ある日の放課後。

僕は素振りをしていた。

正確に言うと「させられて」いた。

これも女子部員の命令である。


監督役の女子が2人。

片方は僕の隣でラケットを振るう。

そしてもう片方がそれを傍らで見ている。


ラケットを振るう方、所謂、お手本役の少女。

彼女は「春香先輩」。

春香先輩は、高校1年生にしては大人っぽい。

髪型は、艶やかな黒のロングヘアー。

そしてなにより目を惹くのが、Gカップはあるであろう、大きなおっぱいだ。


彼女がラケットを振る。

そのたびにおっぱいが揺れる。

なので僕はいつも目の遣り場に困ってしまう。

春香先輩は、僕に対して、テニス部の中で一番優しい。

一見おっとりとしているが、実はしっかり者だ。


そしてもう一方のアドバイス役の少女。

彼女は「亜樹先輩」。

肩口までのショートヘアを、かわいいヘアゴムで2つに縛っている。

身長が低めなのも相まって、年齢以上に幼い印象。

性格は活発で人懐っこい。

そのため、彼女は部員みんなから好かれている。

大人っぽい春香先輩とは見事な凸凹コンビだ。


当然、2人とも1年生。


「あーもう! 違う違う!

 足の使い方が全然ダメ!」


「ごめんなさい……」


亜樹先輩が容赦なく僕にダメだしをする。


この子たちは、良くも悪くも、面倒見のいい子たちだった。

今回のフォームチェック。

これも僕のためを思っての指導らしい。


「あらあら、亜樹ちゃんったら。

 もっと優しく言ってあげないと可哀想だよ?」


「えー晴香は甘いよー!

 だってこの人、すっごくヘタっぴじゃんー!」


亜樹先輩はストンと地べたに座り込む。

そして頬を膨らますと、プイッと他所を向いてしまった。

どうやら拗ねてしまったらしい。

なんて分かりやすい子だ。


春香先輩はそれを見て苦笑を浮かべる。

その様子は、まるで愛娘を見つめる母親のよう。

同じ16歳でも、こんなに違うものなのか……

春香先輩はこちらを向き直す。


「続きしましょうか。

 じゃぁ、ちょっと見ててね。

 こうやって……こう。

 ね? わかった?

 それじゃ、私に合わせてもう一回やってみて」


「はい……よろしくお願いします……」


まさに優しい先輩、といった振る舞い。

本当は僕が先輩なのに。

僕は春香先輩の指示におとなしく従う。


毎日のように行われる「お尻叩きの罰」

それが僕から反抗心を奪った。

僕は1年女子部員たちに怯えている。

まんまと躾けられてしまったというわけだ。

情けない話だった。


「あの……亜樹先輩、春香先輩……

 そろそろ、他の1ね……せ、先輩方が! 来るころだと、思うんですけど……!」


上級生が下級生に指導を受けている。

そんな恥ずかしい場面を、あんまり人に見られたくない。

僕はせめて他の1年生が来る前に切り上げて欲しかったのだが……


「こらぁ! 今、1年って言ったでしょ!

 あーあ! また美姫ちゃんたちにお仕置きされちゃうねー!」


ついさっきまでへそを曲げていた亜樹先輩。

その彼女が急に元気を取り戻した。


「ご、ごめんなさい! 本当にごめんなさいっ…!

 反省してます! だ、だから、美姫先輩には言わないで……」


「ううん、ダーメ♪

 言葉遣いは厳しく躾けていこうって、みんなで決めてるもん」


「そ、そんなぁ……」


亜樹先輩はそう言って「ニシシ」と笑った。


僕は助けを求めて春香先輩の方を見る。

しかし、春香先輩も困り顔で首を横に振るだけ。

またお仕置きされるのか……

そう考えただけで、僕はすでに泣きそうだった。

亜樹先輩は楽しげだ。


「あとで美姫ちゃんに自分から謝るんだよ?

 『僕は1年生の先輩方に、生意気な態度を取ってしまいました。

 美姫先輩ごめんなさい、お仕置きとしてお尻を叩いて欲しいです』って。

 わかった?」


「うぅ……」


「お返事は?」


「はい……」


「よろしい♪」


亜樹先輩はニコリと笑った。

自分から下級生の女の子にお尻を叩いてもらいに行くなんて……

僕の立場はどこまで堕ちていくのだろう。









「おまたせー!

 ごめんねー! ホームルームがちょっと長引いちゃった!」


「おー! みんなおっそいよー!」


亜樹先輩が、声がした方へと駆けていった。

素振り開始から、数十分後。

部員たちが徐々に集まりはじめた。


一方、僕に対する指導はまだ続いていた。

僕は俯きがちにラケットを振る。


「あれー? なに、こいつ、春香ちゃんに素振り見てもらってるの?」


「は、はい……

 せ、先輩がた、ホームルームお疲れさまです……」


僕は後輩として、年下の先輩たちに挨拶した。

1人、2人と……

部員たちが僕の周りに、ぞろぞろと集まりだした。


「あはは! へったくそー!」


「ちがうちがう! もうー! 手首の使い方が変!」


「ああもう見ててイライラするなー!」


「春香ちゃん、私たちに代わってよ!」


遅れて来た1年生部員たちが春香先輩を押しのける。

春香先輩は少し困った様子だ。


「ねーねー春香! もう飽きたし行こうよ!

 ここはみんなに預けてさ!」


亜樹先輩が春香先輩の手を引く。


「あらあら……そうね。

 じゃぁみんなに任せて、行きましょうか」


亜樹先輩と春香先輩は、テニスコートの方へと行ってしまった。


優しい春香先輩が行ってしまった。

それはつまり、虐めを止める者はもう誰もいないということ。




みんな容赦なく僕のフォームにダメだしをしてくる。

次第にそれが野次めいたものになる。

ついには、ダメだしどころか、単なる嫌味や悪口を言いだす始末。


「ぜんっぜんダメ! センスないね!」


「もうテニスやめたほうがいいんじゃない? てかやめろー! 練習の邪魔だしー!」


「あはっ、ひっどーい! でもたしかにー! やめろやめろー!」


「あれ? どうしたの? もうおしまい?」


「ねぇねぇ、続き見せてよ! おもしろいから!」


「あはは! てかコイツ泣いてるんじゃない?」


僕はついに堪えきれなくなった。

僕はラケットを振るのをやめて座り込んだ。

顔を伏せて泣きじゃくった。


それでも野次がやむことはなかった。

むしろ1年生部員たちは、僕が涙を流す姿を見て喜んだ。

彼女たちは、僕をもっと泣かせようと、さらに非道い暴言を吐いた。



「ほら、泣いてないで立てよ!」


1年生部員たちは、僕を無理矢理立たせた。


「こんな根性なしには、お尻叩きが必要だね」


「うんうん! みんなで10発ずつ叩いてやろー!」


泣いている僕の隣で、お仕置きの計画が進められていく。


「ぐすっ……ごめんなさい……

 ゆ、ゆるしてください……」


僕の懇願に耳を貸すものは、誰も居なかった。


「そうだ! ラケットで叩くのはどう?

 こいつに綺麗なフォームを見せてやるついでにお仕置きするの!」


「あーそれいい! ナイスアイデア!」


僕は逃げ出そうとした。

しかし1年生部員たちによって、あっさり押さえ込まれてしまう。

僕は自分の無力さを痛感した。


「じゃあ私からいくねー!」

 ほら! 私の方にお尻向けろよ!」


もちろん僕は抵抗する。

しかし拘束された僕に自由はない。


「い、いやだ! 離して!」


「こら! 抵抗するな!」


僕はお尻を突き出すポーズをとらされる。


「はーい! それじゃあお仕置きを始めまーす♪

 先輩はお尻を叩かれた回数を、大きな声でカウントしてくださいねー♪」


「あ、あ、あぁ……」


ラケットを持った1年生が、僕の背後で構える。

流れるような動作でラケットを振り上げ、そして――


――――バシイィッ!!


「っ…………!!」


「どうしたの?

 回数を数えろって言ったよね?」


「あ……う……うあ……」


あまりの激痛に、僕は声を失った。

想像以上の痛み。

硬質なラケットで叩かれる痛みは、尋常ではなかった。

平手で叩かれるときの比ではない。


しかし、無邪気な苛虐者は、躾の手を休めない。

再びラケットが振り上げられ、そして――


――――バシイィッ!!


「っ…………!!!!」


尻の皮が裂けそうになる。

こんなの、虐めの限度を超えた拷問だ。


「すごーい! めっちゃいい音ー!」


「今度から素振りする時はこいつ使おうよ(笑)」


「いいねー! さんせー!」


誰も僕に同情する者はいない。

逃げ出そうにも、押さえ込まれて身動きが取れない。


「ほら、ちゃんとカウントしないと終わらないよー?」


1年生部員が再びラケットを振り上げた。


――――バシイィッ!!


「っ…………かい……!」


「聞こえなーい」


「い、いっかいです……!」


僕は涙をボロボロ流しながら叫んだ。

1年生部員の間に嘲笑が広がる。

哀れに泣き叫ぶ僕を見て、満足げな女子部員たち。

お仕置きという名の見せ物。

躾という名の虐め。

僕に反抗する権利は無い。


――――バシイィ!!


「っ…………に、にかい……ぐすっ……」


「あはは! いい気味ー♪」


「ほんとほんと♪

 こいつが泣いてるの見ると、スカっとするよね!」


「うんうん、ストレス解消にぴったり!

 よかったねー! おまえ、少しは役に立ってるじゃん(笑)」


指導なんて、名目に過ぎない。

この子たちにとって、これはただのストレス解消。


「どう? 私のスイング綺麗でしょ?

 あんたとは大違いだよね?」


「ぐすっ……はい……」


女の子が、コツコツ、と僕のお尻をラケットで小突く。

完全になめきった態度だ。


「本当の素振りがどういうもんか、体に刻み込んでやるよ」


「は、はい……」


――――パシイィ!!!!


「っ…………! さ、さんかいですぅ……!!」


――――パシイィ!!!!


――――パシイィ!!!!


1人目が終わると2人目。

2人目が終わると3人目。

1年生部員たちは交代で僕のお尻を叩いた。


僕がいったいなにをしたと言うんだ。

しかし抗議の声は届かない。

僕は小さな子供みたいにわんわん泣きわめいた。

どんなに泣いたところで、女子部員たちがお仕置きの手を緩める事は無かった。












「あぁ楽しかった!」


「2年男子をイジメるのって気分いいね!」


「あはは! ちがうちがう、イジメじゃなくて指導だよ! し、ど、う!」


笑い声が遠のいていく。

さっきまでいた場所に、僕は土下座の体勢でうずくまっていた。


――下手くそでごめんなさい

――先輩方の足をひっぱってごめんなさい


散々泣かされた挙句、僕は1年生部員たちに謝罪を求められた。

「頭が悪くてごめんなさい」「気持ち悪くてごめんなさい」等々……

全く関係のない謝罪までさせられた。


ついこの間まで中学生だった女の子たち。

その幼い少女たちによって、僕はズタズタに傷付けられた。


僕に年上としての威厳など全くない。

それが非常に情けない。

悔しくて悔しくて、涙が止まらなかった。

僕は土下座の体勢のまま、しばらく泣き続けた。



WORKSに戻る

web拍手 by FC2

inserted by FC2 system